|
白馬の王子様へ
|
お元気ですか?私は元気です。
元気すぎて最近は腹筋が割れてきました。三段に。
不思議なのはこの腹筋、横にしか割れていないことです。
まあ、お姫さま特有の現象だと思っておりますし、腹筋に違いないであろうことは、私ほどの者ともなれば一目でお見通しです。
このように私はいたって元気なのです。
さて、王子さま。
あなたを待って、もうかれこれ23度目の夏を迎えようとしています。
人類が始めましたオリンピックは今年で第27回目だそうです。
この人類の偉業に私の一人きりの季節が、いまや王手をかけようとしています。
つかぬ事を伺いますが、今どのへんにいますか?
糸車で指を刺した眠気もすっかり覚めて、自分でイバラを切って城からひょっこり出てきてしまいました。
玄関にて今か今かとお待ちしております。
ええ、ええ、大丈夫です。
私だって城育ちといえども、粋な江戸っ子。
あなたの影がチラリとでも見えたあかつきには、そそくさと城に戻ってベッドでタヌキ寝入りいたしましょう。
ところで、私も23になりました。
この秋には24となるでしょう。
恥ずかしながらもう10代の小娘ではございません。
もしあなたの馬が長い旅路の末にすっかり汚れて黒馬になっていたとしても、私の喜びはかわりません。
洗濯する暇があったら迎えに来て下さい。
はたまたあなたが膨大な旅費の糧に馬を売ってしまって、すっかりの徒歩だとしても。私の感激が変わるわけがありません。
ポニー牧場に寄る暇があったら迎えに来て下さい。
はたまたはたまた、王子さま、あなたほどの人となれば引く手もあまた。
旅の途中に間違って7人の小人に誘われて、毒リンゴも食らうような食い意地の張った姫をご自慢の白馬に跨らせてしまったとしても、所詮、過去の話でしょう?
私は耐えましょう。耐えますとも。
だからそのガラスの靴は横に置いといて、早く私を迎えに来て下さい。
その他諸々。
マントが破れていてもいい。
お気に入りのカボチャパンツが、しぼんでいてもいい。
白いパンストが伝線していてもいい。
裸一貫でいい。
最悪、実は白馬の方だった!というオチでもいい。
あなたが「王子だ」って言うのなら、私は喜んで信じましょう。
だから白馬の王子さま、今ぶっちゃけどのへんにいらっしゃるんでしょうか?
こちらから航空券を手配します。
嗚呼、麗しの王子さま。
あなたをすっかり待ちくたびれて、あなたを思うドキドキと階段を登った後の動悸息切れの境目が、いよいよおぼろげになって参りました。早く。
加藤はいね
王子さま
|
いつか白馬に乗った王子さまが・・。
|
自我が目覚めて以来、体育の授業で男子の胸に乳首が付いていた時は卒倒した。
アタシは男の子はみな王子さまだと思っていた。
アタシは科学の子だった。
すこぶる理科が好きだった。
種の皮を被ったあどけない二葉が、土を押し上げながら顔を出す様子を一寸の狂いもなく模写した。
朝顔のポルノヌードとも取れるくらいの観察日誌だった。
そのアタシの科学力で察するに、男子がみな王子さまであることは確かだ。
なぜならアタシが紛れもなくお姫さまだったからだ。
女の子なら誰でも問答無用でお姫さまなのだ。
ところがアタシは理科の中でもすこぶる生物学的分野に感心を抱いていた。
そしてアタシはあるミスに気が付くのだ。
白馬の数が決定的に足りない。
チャボの飼育小屋にもカブトムシの幼虫カゴにも、白馬の片鱗も見あたらない。
リンドウ湖ファミリー牧場でやっとだ。
この国に白馬は少なすぎる。
すなわち白馬に乗った王子さまの数もおのずと少なくなる。
それは男子全員が王子さまであるということを明らかに否定していた。
王子の中に玉子がいる。
国子がいる。
王3がいる。
田子がいる。
工子がいる。
ヨ子がいる。三子がいる。王るがいる。土子がいる。
この世は偽物で溢れているとアタシは気が付いた。
そしてアタシは同時に自らがお姫さまではないことも気が付いてしまった。
お姫さまとは、白馬に乗った王子さまを射止めた者だけが与えられる称号なのだ。
アタシはその不条理に九九の7の段より前に気が付いてしまった。
馬鹿でいたかったです。
男子はみな王子さまではない。
まして王子さまを捕まえられない女子はお姫さまとは言えない。
ところでアタシはプリンセスメーカーでは必ず彼女を木こりに仕立て上げる名手だ。
手っ取り早いものが得意だ。
あれから幾年月、アタシはとりあえず王様あたりを目指している。
白馬に乗った男を見つけるより、自分で白馬をとっつかまえる方が簡単そうだと思ったからだ。

「あおにさい」
←マッチと田原